佐々木譲著『警官の血』は、ミステリーとしてはいまいち盛り上がりに欠ける気がするが、時代の雰囲気、特に戦後間もない下町の情景や、安保闘争の頃の学生たちの高揚ぶりは、心に残った。

まるで祖父や老父母から体験談を聞かされているような時代の匂いを感じるが、それが昭和の終わり以降になると、途端に匂いが消えてしまう。

ウミガメ私が下巻を読んでいて、どうも気分が乗らなかったのはそのせいもあるだろう。

現在は時代の匂いを感じられないのか、それとも「無臭」が今の時代の「匂い」なのか?

さて、この物語の重要なモチーフに『同性愛』がある。

初代警察官清二は、戦後の上野公園などでそんな人たちと関わっている。
上野公園がいわゆる「ハッテン場」だったのだろう。

確か三島由紀夫著『禁色』でも同性愛者である主人公が、上野公園あたりで自分と同類を見つけ、ぎょっとするシーンがあった。

そして、戦後そのような性癖を持つ人が多かった理由に『戦争』がある。

そう言えば昔、テレビを見ていて新宿のおかまバーのママの話を聞いた事がある。
そのママは、太平洋戦争で徴兵された時、兵舎で同性愛に目覚め、それからは毎日ウハウハ、バラ色の人生だったという(確かに周りは若い男ばかりだし)

その味が忘れられず、今でも「また戦争起きないかな、わくわく」と願っていると語っていたが、『警官の血』における「同性愛」のきっかけはそんな笑い話どころではない、悲惨な体験が男たちを一変させたのだ。

また多くの同性愛者は、おかまバーのママと違って、その性癖を恥じ、隠していたと思われ、それがこの物語でも悲劇を呼んだのだ。

現在はカミングアウトする人も増え、中にはアイドルやカリスマタレントがいて、彼らは時代の寵児となっている。

そういった「同性愛」に対する変化や理解も描いてほしかったなぁ、と、直木賞作家に向かって偉そうに語ったりしてみる。

禁色 (新潮文庫)
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