朝焼け 本を選ぶための指針として読んだ、米原万里著『打ちのめされるようなすごい本』に、すっかり打ちのめされてしまった。

まず、速読の凄さである。
数十年にわたり、平均1日7冊を読んでいたという。
豊富な読書量に裏打ちされた幅広い教養と、ロシア語同時通訳の第一人者としての経験を持つ彼女の読書日記と書評は、とにかくすごみと迫力があり、ジャンルの広さ、咀嚼能力には、これが同じ人間かと茫然としてしまうほどで、しかも文章がシンプルで面白いのだ。

うかうかしていると、この本で紹介されている作品すべて読みたくなりそうで、著者と違い7日に1冊読むのがやっとの自分は、選択に迷ってしまう。

さて、そんなスーパーレディな米原氏だが、ご存じのように4年前、癌で亡くなっている。

そしてこの作品の中に、癌の闘病記が載せてあるのだが、何とも胸が痛くなる内容なのだ。

癌を宣告された日から、知識欲の強い彼女は当然、癌関連の著書をむさぼり読むのだが、中にはいわゆる民間療法とされるのもある。

そして、それら民間療法も果敢に試してみるのだが、真摯な彼女は、治療法や効果に疑問を感じると、黙ってはいられず、医師に問いただす。

その理路整然とした質問が、医師には気に入らないらしく
「貴女にはむかない治療法だから、もう来るな。払った費用は全額返す」「いちいちこちらの治療にいちゃもんつける患者は初めてだ。治療費全額返すから、もう来るな」と言われてしまう。
そして、その1、2ヵ月後に、彼女は55歳の若さで逝ってしまうのだ。

わらをも掴む気持ちで挑んだであろう民間療法だったが、既に病状が進行していた彼女には何の役にも立たず、ストレスだけが残った訳だ。

聡明な彼女のこと、それらの治療法のうさん臭さは重々知っていただろうが、それでも試さずには居られなかった心境を思うと、何ともやり切れなく切ない。

しかし、死の直前まで、冷静な筆致で(もちろん心のうちは凄まじい葛藤があったろうが)癌闘病記を書き続けたその精神の強さに、心から拍手をおくりたい。

打ちのめされるようなすごい本
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