奇跡の人よく世間では、ヘレン・ケラーのことを「三重苦の聖女」と呼びならわしているが、考えてみると、ちょっとおかしい。

たしかに幼い頃は「三重苦」だったかもしれないが、別に声が出ない病気にはなっていないし、後に猛特訓の末、言葉をしゃべれるようになっている(もちろん通常の人のようにはいかないだろうが)

また、手話と多数の言語の点字も読める。

しかも彼女の自伝を読むと、ずい分向こう見ずでガラッパチな性格だ。もういいかげん彼女を「気の毒な女性」と定義するのはやめたらどうだろうか。

さて、北九州芸術劇場で、田畑智子主演(主役はやはりサリバン先生だろう)の「奇跡の人」を観てきた。

素晴らしかった。至福の時間を過ごさせてもらった。そして思った、これはかなり真実に忠実ではないかと。

実際、アニー・サリバンが、ケラー家に家庭教師としてやってきた時はまだ20歳。北部の盲学校を卒業したばかりの頃だ。

自身も目が悪く、劣悪な環境の救貧院で育ち、病弱な弟をそこで亡くしている。
そして、たび重なる手術の上、どうにか目が治ったサリバンは、自活するためケラー家の家庭教師になったのだ。

崇高な目的や慈愛の心などさらさらなく、とにかく生活のために、手探りの状態で彼女は、甘やかされて育ち暴君のようなヘレン・ケラーを教育する。

粗悪な環境で育ったヤンキー娘が、苦しかった過去のトラウマに苦しみ、南部の旧家という未知の世界に戸惑いながらも、自分の我を通そうとする。

そんなサリバンと、闇と音のない世界の暴君、ヘレン。二人の頑なな少女のぶつかり合いは壮絶を極める。

若い田畑智子は、そんな、精一杯つっぱっているサリバンを見事に演じていた。

「奇跡の人」の舞台は大竹しのぶのアニー・サリバンが有名だが、私は見たことがないので分らない。
芸達者な大竹より、少し固さの残る田畑の方が、アニー・サリバンらしいと思うがどうだろうか。

わたしの生涯