最近マイブームになっている、須賀敦子氏の『トリエステの坂道』を読んでみた。
読み終わってつくづく思う。
死や別れ、貧しさ、衰退など、世間一般ではネガティブと呼ばれるものに対する眼差しの、なんと優しいことか。
まず1番目のエッセイ「トリエステの坂道」
これは彼女が、イタリアの詩人ウンベルト・サバの足跡を尋ねて、彼の故郷、イタリアの町、トリエステをさ迷い歩く1日の話だ。
20年以上前、夫と共に夢中になった詩人サバ。
いつか一緒にトリエステに行こうと言った彼は、約束を果たせぬまま若くして亡くなる。
実は彼女の目的は、サバではなく、亡き夫への鎮魂の旅だったのだと大方の読者は分かるだろう。
かつて繁栄していたが、今はさびれた港町であるトリエステは、彼女の心象風景とぴったり合うのだ。
さて、このエッセイ集には、有名な作家も、市井の貧しい人たちも出てくる。
そして彼女は、誰に対しても、目線は同じだ。
少し知恵遅れで街角で花を売っている男も、売春婦も、イタリアを代表する女性作家も彼女の中では同じなのだ。いつかは死にゆくものたち・・・。
そして、落ち着きのある文章を読んでいると、衰亡していくのもまた人生かな、と納得してしまうから不思議なものだ。