ある活字中毒者の日記

       神は細部に宿る

日本映画

尼崎を深く潜れ

最近、映画を劇場よりも、家庭でDVDで済ます方が多くなり、邪道だなぁと反省しきりなのだが、DVDの良い点は、途中で休憩を入れることができることだ。

特に自分のようなぼんやりした人間は、2時間近くなると、集中力が途切れてしまう。

彫物さて、『赤目四十八瀧心中未遂』という日本映画のDVDを観た。

原作は車谷長吉氏の同名小説だが、まだ彼の小説は読んだことがない。
エッセイなどを読むと、独特の自分の世界をもっている、ちょっと偏屈なオジサンという感じで期待が持てる。

さて内容は、釜ヶ崎から尼崎に流れてきた、わけありの青年生島は、ボロアパートで日がな一日、鳥の臓物をさばき串を打って暮らしている。
彼の周りは、彫り物師、やくざ、娼婦など、社会の底辺でうごめいている人ばかり。

生島はそんな彼らに驚き、戸惑い、振り回されていく。

やがて同じアパートの女性、綾(寺島しのぶ)にだんだん惹かれていくが・・・・・・。

・・・すごく面白かった!159分と長い作品だが、集中力が途切れることなく、楽しむことができた。

オフェリア暗いどろどろした世界を想像していたのだが、思ったより明るく、尼崎版やさぐれた『めぞん一刻』という趣だ。

主人公生島を演じている俳優は、当時新人だったらしいが、おどおどして、始終周りの人たちに振り回され、緊張しまくっている感じがそのまんまで良かった。

そして、他の登場人物は、みな個性的であくが強く、ディープな大阪・尼崎の雰囲気と相まって強烈だ。
特に彫り物師の内田裕也や、焼鳥屋のおかみ大楠道代、無口な店員、新井弘文などが印象に残った。

ちょっと懐かしいATG映画の匂いがあり、これを観る限り「尼崎」って、いまだに昭和なんだな、と思った(偏見)。

映像も美しく、特に赤目四十八滝のシーンは透明感があって秀逸、できれば劇場で見たかったなぁ・・・・。

そんなわけで、車谷長吉氏の作品、今度読んでみよう。

赤目四十八瀧心中未遂
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正義の味方ができるまで

伊坂幸太郎まつり続く・・・・。

フィッシュストーリー』という映画のDVDを観た。

女子高校生〜原作は伊坂氏の短編で、今年の3月ごろ映画館上映されていたのだが、私の住む地方ではやってなかったのだ(文化の砂漠)。

原作も読んでいないのに、安易にDVDで済ますのは如何なものかと思いつつ、面白そうだったので見てしまった。

内容は、2012年、彗星が地球に衝突するまであと5時間・・・。
廃墟と化した街で、一軒だけ開いているレコード店。
店長が廃盤となったあるレコードに針を落とすと、物語は過去に深く潜っていく。

正義の味方くんそして、1975年、早過ぎたがために売れないパンクロッカーたちが挑んだ最後のレコーディング、1982年、気が弱く苛められてばかりの大学生が、初めて勇気を奮い立たせた時、2009年、フェリーに取り残されてしまった女子高校生と、不思議なシェフが、シージャックに遭遇して・・・・。

やがて、それぞれの出来事の積み重ねが、地球を救う!

いやぁ、すごく面白かった、楽しかった!

それぞれのエピソードを織り込みつつ、クライマックスに向かって収斂していくさまは、いかにも伊坂作品だが、決して散漫な感じは受けなかった。とにかく登場人物が魅力的で、それぞれの人生愛すべき人たちなのだ。

冷静に考えれば、壮大なるホラ話、大げさなこじつけ話だが、そう思えないのは、それそれの時代の、彼ら彼女らが、今この時を、真摯に生きているからだろう。

どのエピソードも面白かったが、特に印象に残ったのは、2009年の「正義の味方になりたい」というシェフ。あの独特の存在感とアクションの美しさは心に残った。

また1975年のパンクロッカーたち。ファッションセンス良過ぎ。当時あんなおしゃれなロッカーなんていなかったよ。

ああ、それにしても、地球滅亡まであと5時間だというのに、レコード店でまったりと、セックスピストルズの「マイウェイ」を語っていた店長と客。
あんたら最高だよ。そんな終末の過ごし方も悪くないな。

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アートは人のためならず

バカ夫婦今更だが、北野武監督の映画『アキレスと亀』のDVDを観た。

昨年劇場公開された時は、ベレー帽姿の主人公に、「今時ベレー帽かぶった画家かよ、ドリフのコントじゃあるまいし・・・」ということで、ほとんど興味が湧かなかったのだが、最近「面白かったよ」という友人の意見もあり、DVDを借りてみたのだ。

・・・そして観おわった後、後悔した・・・。

すごく良かった、まず映像が美しい。
静かな田園風景、そしてたけし自身が描いた、たくさんの鮮やかな絵画。ああ、大きなスクリーンで観れば良かった。

思うに、これは才能がないのに「芸術」という実体の無いものに取り憑少年時代かれた男の物語だ。

主人公真知寿は大富豪の家に生まれた。芸術かぶれの父親は、画家のパトロンをし、画商の言われるままに絵画を買っていた。

そんな環境で、自然と絵を描くようになった少年時代の真知寿。

ベレー帽はその頃、有名な画家からもらったもので、彼にとって一番幸せだった時代の象徴なのだろう。

画家や画商たちは、金蔓の息子におもねって、「いやあ素晴らしい絵だ」「天才だ」と散々彼の絵を持ち上げ褒めちぎる。

父親の権力が強かったため、真知寿が小学の授業中、勝手に絵を描いてもだれも叱らない。

そんな訳で、彼は「自分は芸術家になるのだ」という暗示をかけられてしまったようだ。

しかも自分が好き勝手に描いたものを周りの大人たちがことごとく褒めるため、彼は肝心の「基礎を学ぶ」というチャンスを逃した。これは芸術家としては致命的だ。

いわゆる野狐禅というやつに近い。師に学ぼうとせず、自分勝手な思い込み、妄想だけで絵を描くようになるのだ。

やがて父の会社は倒産、両親は相次いで自殺し、真知寿は貧困生活を送ることになるが、芸術家になる夢は捨てきれず、大人になっても働きながら絵を描き続けた。

だが相変わらず何を描いていいのか分からない彼は、画商におもねり、その意見に振り回されている。この時の画商と真知寿のやりとりが絶妙の間で面白い。コメディセンスはさすがだ。

そして、妻になる女性との出逢い。

妻は画家を目指す夫のためだけに生き、彼以上にその芸術にのめりこんでいくのだ。

さて不思議なことに、真知寿が出会う人々は、概ね彼に協力的だ。

孤児になった彼を引き取った叔父は、悪態は付きながらも絵を描くことを許してくれたし、青年時代、新聞配達所の主人も印刷工場の社長も、絵ばかり描いて真面目に仕事をしない真知寿に優しかった。
画商も、散々嫌味を言いつつも、彼の絵を店に飾ってくれてるし、実の娘に至っては、悪態を吐きながらも、売春(!)をして家計を助けている。

そして妻は言わずもがな。

善意の人々に囲まれ、真知寿は「芸術家になる」という列車から降りる機会を逸してしまったのかもしれない。

思えば彼にハッキリ「下手だ!」と言ってくれたのは、叔父に引き取られていた時、近くに住んでいた農家の知恵遅れの男だけだ。

真知寿は絵を描く時、少しも嬉しそうではない。

本来、白い画用紙に絵を描く、それは原始的な喜びであるはずなのに、「芸術」とはなんと重く辛く、やっかいなのだろう。

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お金も欲しい、愛も欲しい

お金を稼ぐ事がいけないことでしょうか5月の連休にNHKドラマ『ハゲタカ』を観て以来、すっかり時季外れのハゲタカブームになってしまい、NHKドラマのDVDを購入し、リピートで観ている。

映画も見、ついに真山仁著の原作『ハゲタカ犠絏軸』『ハゲタカ蕎絏軸』4冊を読み倒してしまった。まさにハゲタカの餌食。

それにしても原作はなかなか読み応えがあった。

外資ファンドの敏腕マネージャー鷲津政彦が 、冷酷非道に企業買収をするふうに見せかけて、実はコテコテの人情話、男の情念てんこ盛りだった(そこがまた良いのだが)ドラマ版と違い、原作はよりクールでスケールがでかい。

あまりにでか過ぎて、日本の首相やアメリカ大統領も出てくるし、最後は収集がつかなくなるのではと思ったほどだ。

一緒に日本を買い占めましょう主人公のキャラも、ドラマ版の鷲津が、ストイックで繊細、女っ気なしなのに比べ、原作の鷲津はやたら女に手を出すし、貪欲で肉食系、ハゲタカというより、百獣の王、ライオンのようだ。

実名は出してないが『東鳩』『カネボウ』『富士通』『キャノン』とおぼしき企業の攻防戦も実に興味深い。

それにしても、昔はカネボウ化粧品、すきだったのになぁ。

さて、作者真山仁氏は、これが初の長編小説らしいが、張り切り過ぎて、キャラを詰め込み過ぎではという印象はある。

南朋くん鷲津が昔アメリカでジャズピアニストだったとか、とにかくあまりのスーパーマンぶりだが、彼の正義ぶらない、場合によっては汚い手も使う狡猾さが逆に気持ち良い。

いわば自分の中の正義だけを信じる潔さ、アンチヒーローぶりには惹かれる。

ところで『ハゲタカ恐軸』のラストは、・・・to be continuedで終わっている。

ああ、まだまだ「ハゲタカの餌食」は続くのか・・・・・。

ハゲタカ(上) (講談社文庫)
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優しい男

2009年も半分が過ぎた。

今年は例年より読書量も映画を観る回数も多いのに、ブログはさっぱり更新されず。何故なんだ。

ブログにアップする時間があったらその分、たくさん活字を読みたいから?何を焦ってるんだ自分。余命何年だ。

そしてしょこたん@中川勝彦の娘、別な意味で何を焦っているんだ。

ま、それはともかく、NHKドラマ『ハゲタカ』に、遅ればせながらはまって以来、主人公、鷲津政彦を演じた大森南朋クンが出演した映画やドラマのDVDを観ている。

驚いたことに、大半の作品はすでに見てるのに、大森クンとは全然気が付かなかった。

作品によってガラリと雰囲気が変わる。カメレオン俳優と言うより、感性が素直で柔らかくて、どんな役柄にもナチュラルに溶け込むことが出来ヴァイブレータるのだろう。

そんな作品のひとつ『ヴァイブレータ』を観た。

これは赤坂真理の同名小説を映画化したもので、大森君は金髪の長距離トラックの兄ちゃん、そして寺島しのぶがアル中でメンヘルぎみの30女を演じている。

さて、世界で一番優しい男とはどんなやつか。

それは、コンビニで見つけた、いわくありげな女を、トラックの助手席に乗せ、ハンドルを握りながら、くだらないホラ話を延々と聞かせてくれる男だ。

そしてトラックは、東京から、まだ雪の残る新潟へと向かう。

次々と移り変わる風景、体を包み込むトラックの振動。女の素性を聞こうともせず、バカ話を続ける男の声が心地よい。

そしてこれが重要だが、男は自分の優しさを全く自覚していない。

2人だけの空間そして女は、彼の本能的な優しさを、頭ではなく体で感じている。

突然パニックにおちいり、嘔吐する女。そして助けようとする男に向かって「さわらないで!!」と叫び悪態をつく。

なすすべもなく、途方にくれた男の表情が、また女には嬉しいのだな。

やがて、春まだ浅い日本海沿いを走ったトラックは東京に戻り、2人の旅も終わりを告げる。

この別れがまた切ない。

思うに男は、統合失調症気味の女の、妄想だったのかもしれない。

でも寺島しのぶ演じる女は自分の意志で、トラックを降りるのだ。

最後の静かな笑顔が美しい。

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金を粗末にするな

鷲津さん・はあと5月の連休中、テレビで再放送されていた、NHKドラマ、『ハゲタカ』を偶然見、夢中になってしまった。
2年前、土曜の夜に放映されていた時は、都合で見られなかったのだ。

アメリカのファンド、いわゆる「ハゲタカ」が日本企業に仕掛ける壮絶なマネーゲームを描いたもので、練り込まれた脚本、スリリングなストーリー展開でわくわくさせてくれる。

そして何より、主役のアメリカ系投資ファンドの敏腕マネージャー、鷲津政彦に私は魅せられてしまった。

眼光鋭く、冷徹でありながらも、妙に人間くさい。

都会的なクールさと野暮ったさ、人の強さと弱さが何の矛盾もなく同居している不思議な魅力の持ち主だ。

日中対決あと5年もすればメタボかなと思われる体型や、少し後退している前髪も、鋭さの中に、ほっとする安心感を与えている。

演じている大森南朋さんは、舞踏家、麿赤兒の息子さんだそうで、あの子泣き爺のような面妖な父親の息子とは、とビックリした。

さてこのたび「ハゲタカ」が映画化されたので早速観にいった。

映画のストーリーは、中国系ファンドが潤沢な資金を背景に、日本の大手自動車企業を狙っている。

海外で引退生活をしていた鷲津だが、先輩のたっての願いで日本に戻り、中国系ファンドの天才マネージャー、劉一華と対決するという話だ。

鷲津さん、2年前より頬もふっくら、前髪はますます後退しているようで、そこが何ともいとおしい。

ハゲタカと派遣工そして玉山鉄二演じる残留孤児3世、劉一華と、高良健吾演じる派遣工、守山。このイケメン対決も見ものだ。

気になったのは、無理に今の日本に合わせようとして、派遣労働者問題などを絡めているが、どうもやっつけ仕事のような感がすること。

日々めまぐるしく変わる経済情勢において、映画と現実ではタイムラグが生じるのは仕方ないことなので、それよりも、劉一華の生い立ちなどをもっと丁寧に描いてほしかった。

でも、鷲津さんに再び会えただけでも、私は幸せ。

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レトロな街のヒーロー

金城武主演の映画『k−20 怪人二十面相・伝』を観てきた。

脱出成功この映画、『ALWAYS 三丁目の夕日』のスタッフの制作ということで、いかにも作り物のノスタルジーというあの感じが苦手な私は、躊躇していたのだ。

でも金城君は大好きな俳優だし、私の甥っ子に似ているし(身内自慢)何といっても、わが街北九州でロケを行っていることを知り、これは見に行かねばと思ったのだ。そして・・・・、

・・・・・・・いやぁ、期待した以上に面白かった!!爽快な時間を過ごしました。

舞台は、平和条約が締結され、第二次世界大戦が回避された1949年引っ張りだこの東京(帝都)。

この架空の都市では、一部の華族が富と政権を独占し、多くの庶民は食うや食わずの貧困に喘いでいる。

都心の街並みはドイツの影響を受けてか、レトロな中にも渋さと重厚さがあり、瀟洒な建築物の周りには、無数の貧しい家々がかろうじて建っているありさまだ。

『三丁目の夕日』では嘘っぽかった映像が、ここではパラレルワールドのせいか、SFっぽい雰囲気でわくわくした気持ちにさせられる。

レトロな街並み遠藤平吉(金城武)は孤児として育ち今はサーカスの花形団員。だが身分が低いためいくら一生懸命働いても貧しいままだ。
ある日彼は、見知らぬ男から、羽柴財閥の礼嬢葉子と、名探偵明智小五郎との「納采の儀」の写真を隠し撮りしてほしいと依頼を受ける。

金のため引き受けた彼だが、それは陰謀で、なんと「怪人二十面相」の濡れ衣を着せられ、警察に逮捕されるのだ。

サーカス仲間の協力で脱走した彼は濡れ衣を晴らすため、明智小五郎(仲村トオル)や葉子(松たか子)らと協力して真相をつかもうとするのだが・・・・。

レトロな街で繰り広げるアクションはかなり本格的で、うーん金城君、すごくガンバっていたのが伺える。

廃墟に立つ彼のやや活舌の悪い日本語も、無学で口下手で、でもひたむきな青年という感じがして違和感はなかった。

國村隼さんら脇役陣も充実して見ごたえがある。

映像の中の、おらが街の風景も嬉しい。

我家の近くで撮ったのもけっこうある。いつ撮影したのだろう。知っていれば絶対見に行ったのに・・・・・。

ていうか普段見慣れた、地元民にはしょぼい景色が、こんな鮮やかな風景でよみがえるなんて、映像の力ってスゴイ。

門司赤煉瓦プレイスさて、映画の中では平吉たちが、華族と庶民という階層、ずばり「格差社会」について憤りを露わにしている。

でもこの政府、第二次世界大戦を回避したのだから、そんなに無能ではないはず(少なくとも現実の日本政府よりも偉い)
何とか理性で公平な社会を作ってほしいものだ。革命は決して解決にはならないのだから。

いい男ところでこの作品、江戸川乱歩の「怪人二十面相」とは似て非なるものだ。
まったく別物として鑑賞した方が、より楽しめるかも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

死刑を支える人たち

休暇』という日本映画を観てきた。原作は吉村昭氏の短編。

以前から気になっていたのだが、上映している劇場が少なくて、おととい、やっとこさで観ることが出来たのだ。

妻と連れ子水曜、レディスディの夕方なのに、観客は私を入れても6人ほど。しかし期待以上に良かった。心が震えた。

さて内容は、50歳くらいとおぼしき刑務官、平井が見合い結婚をすることになった。初婚だ。

相手の女性には6歳の可愛い男の子がいるのだが、この子が無口で一日中絵ばかり描いて、平井になつこうとしない。

平井は、この幸薄そうな母子のために新婚旅行に行きたいと思うが、母の葬式などで有給を使い果たしている。

ちょうどその時、平井の勤める刑務所で3年ぶりに死刑が執行されることになった。
その際死刑囚の支え役(吊り下げられた死刑囚の体が、上から落ちてくるさい、痙攣する体を支える役)をしたものには、特別に一週間の休暇西島くんが与えられるという。

そして平井は休暇をもらうため、その嫌な仕事を引き受けるのだ・・・。

物語は、つつましい新婚旅行に出かける3人と、死刑囚を中心とした刑務所の様子が、交互に描かれている。

静かな映像には、説明というものがほとんどない。

平井がなぜずっと独身だったのか、妻の前夫はどんな人でなぜ死んだのか。

死刑囚の男、金田は老夫婦を殺したらしいのだが、その理由もいっさい分からない。

この金田という男、独房の中では、清潔なボタンダウンのシャツとズボンで、髪もこざっぱりとし、たたずまいも静かで、いつもスケッチブックに絵を描いている。

死刑囚には見えないところが逆に不気味で、いつ切れるか分からない時限爆弾のような危うさがある。

看守と死刑囚また極端に口数が少ない。というかほとんどしゃべらない。

久しぶりに妹が面会に来ても、2人とも黙ったまま・・・・・。

テレビだったら明らかに放送事故と思われる長い沈黙。
確信的というか、暴力的ともとれる沈黙の中で、その分観ている私の頭に色々な想像が浮かんでは消える。

兄は妹の一生を台無しにしたことを悔やんでも悔やみきれずにいるのか、妹は死にゆく兄に何を言おうと思っていたのか、それともこの二人には、他人には伺い知れない深い秘密があったのか。
そもそもあの殺された老夫婦、もしかしたら金田の両親なのでは?

それにしても金田役の西島英俊の演技は、すごいとしか言いようがない。

特に死刑執行が決まってからの彼はリアルで凄まじい。

すっかり諦観しているように見えながらも、いつもの看守と違う足音にびくつき、今からと知った時の、腰がへなへなになる様子。だが暴れる訳でもなく、看守らに抱きかかえられるようにして死刑に向かう姿・・・・。

執行されるまでの様子があまりに緊張感があり過ぎて生々しくて、苦しくなってきた。

そして、一日中絵ばかり描いている寡黙な少年と、やはり一日中スケッチブックに向かっていた無口な金田の姿、また少年を抱きしめる平井と、痙攣する金田の体を抱きしめる平井の姿が気味悪くシンクロするのだ。

物語はラスト、平井とその妻、少年の幸せそうな笑顔でホッとした。

死にゆくものもあれば、これから生きていく人もいる。

ああそういえば、この映画が公開されたころ、あの鳩山法務大臣の「死神」発言があったっけ。。。、

蛍 (中公文庫)
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革命が消える時

7月になった。そして久々に梅雨の合間の 晴れ間である。

青空のもと、頬に当たる風も心地よい。

今日は一日。映画の日だ。

こんな天気にふさわしい、さわやかな映画を楽しみたいなと思いつつ、結局観たのは、

若松孝二監督の『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』という何とも重く暗く、辛気臭い作品だった。

だが、辛気臭くはあるが、実に面白かった。3時間10分という時間の長さなど全く感じない。
出来ればあと2時間ぐらいあっても良いくらいだ。

あさま山荘事件と言えば、1972年だ。この年の冬は、よく覚えている。

まず2月初めに行われた札幌冬季オリンピック。
ジャンプ70メートル級では、笠谷選手らの活躍で、金銀銅独占で湧き立ち、日の丸飛行隊ともてはやされた。

そしてフィギュアスケートでのジャネット・リンの尻もち。

そんなオリンピックの興奮も冷めやらぬ頃、ニュースとして飛び込んできたのが、連合赤軍のあさま山荘籠城事件と、その後明らかになった仲間同士によるリンチ殺人事件だ。

あさま山荘へ当時私も、テレビや新聞のニュースに夢中になったものだが、印象に残っているのは、

1、壮絶なリンチのあった赤軍のアジトに生後3か月の女の赤ちゃんが残されていたこと。若い父親はリンチで殺され、母親はアジトから逃亡、仲間の女性が大事に世話をしていたらしい。
尚、当時赤ちゃんの映像と実名は大々的に放映されたが、その後、改名したらしい。お元気であれば、今36歳か・・・。

2、逮捕されたある女性の言葉、『仲間が集まっての楽しいアジト暮らしを期待して来たのに、こんなことになるなんて…』
おいおい、楽しいって、部活の合宿の延長じゃないんだから。

3、永田洋子のこと。
薬科大学時代、パセドー氏病に罹って、容貌が変わり、容姿にコンプレックスを持っていた。そのため仲間内で可愛い女性を主にリンチしていたなど。

そして「ソーカツ」「ジコヒハン」という名のリンチだ。

さて、肝心の映画の方だが、

おもに、3つのパートに分かれている。

まず最初は1960年の安保闘争から、連合赤軍誕生まで、闘争の流れを、ニュース映像などを交えながらドキュメンタリータッチに描く。

正直な話、ここでは学生らの活動が少し羨ましく思えた。

たしかに暴力的で講釈ばかりの青臭い奴らではあるが、革命を純粋に信ずる気持ち、仲間と共に目的に向かっていく高揚感は、今は絶えて味わえない、たとえようもない歓びだったのだろう。

だがその陶酔も束の間、物語は1971年の終り頃、山岳ベースでの共同生活に移る。

その頃、仲間の脱走が続発し、裏切りやタレこみを恐れた幹部は、疑心暗鬼に陥り、より厳しく仲間を締め付ける。

そこでの凄まじい総括(リンチ)。仲間のほんの些細なミスに付け込み、自己批判をさせ、やがて総括していく・・・。

映画では永田洋子がリーダー格の森恒夫に讒言を弄して、目立つ女性らをリンチに追い込んでいく様子が描かれている。真実はどうか知らない。

映画の中の永田洋子は、思っていたより魅力的だ。

冷酷な女性だが、時折見せる表情には可愛らしさも感じる。

彼女は幹部の坂口弘や森恒夫とも肉体関係がある。美人の女性に嫉妬してリンチ、なんて分かりやすいヒステリックな行動、するだろうか。

そして、仲間のみんなも、やられっぱなしじゃなしに、たかが女1人なのだから、団結して永田の暴走を止められなかったのだろうか。不思議だ。

それほど1人1人が疑い深くなっていたのか。

とにかくも陰惨で、壮絶なシーンばかりだ。

そしてラストのあさま山荘籠城。

ここで一転、再び彼らは革命戦士となる。

まるで悪夢から覚めたかのように、生き生きと行動し、山荘の管理人の女性にも紳士的に応対し、仲間5人、力を合わせ、警察らと立ち向かう。

だがそれはあだ花だった。そして学生運動の終焉でもある。

さて、団塊世代より一つ下の世代の人たちの事を、よくシラケ世代、三無主義と言うが、あんな無様で、醜い終焉を大々的に見せつけられたら、無気力になるのは当たり前だ。

やがて若者は、怒ることを忘れ、社会にもの言うことを止め、日々楽しく過ごす術だけを身につけた。

安保条約がある限り、政治にしろ外交にしろ、常にアメリカのご意見伺いをしなければいけないのだし。

結果それが良かったのかどうかは分からない。

今、そんなあさま山荘チルドレン(勝手に命名)が日本の中枢を担っている。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大人の放課後はシブかった

伊丹十三氏のエッセイだと思うが、
『日本の俳優は、貧乏人の役をやらせるとすごい。それこそ情けなるほど上手く演じる。だが、金持ちの役をやらせると全く駄目だ』

と、いう言葉があった。同感だ。

確かに、名もなき兵士や、幸薄い娼婦の役は見事に演じても、ごく贅沢に育てられた高貴な身分の役となると、どこか無理してるような痛々しさはよく感じる。

アフタースクールこのたび観た日本映画『アフタースクール』でも、一流企業の社長が重要な役で出てくるが、これがどう見ても、ボーリング場の支配人程度にしか見えないのだ。

さて、この作品、観終わった瞬間は
『うゎ、面白かった。こんな楽しい日本映画も久々だな』
などと喜んでいたのだが、時間が経つにつれ、気持ちが醒め、妙に空疎な印象しか心に残らず、『もしかして、つまらなかったのかも』と、いつのまにか、正反対の思いに変わったのだった。

もちろん良い作品だとは思う。

大泉洋、佐々木蔵之介、堺雅人と、今を時めく名優を揃え、テンポの良い脚本、凝ったディティール、そしてなんといっても、そのプロット作りの巧みさ・・・・。

だが監督はプロット作りで安心してしまったのだろうか。

肝心の人間の内面が描けていないのだ。

まずこ物語のヒロインだが、私にはさっぱり魅力的な女性には見えず、したがって、なぜ彼女のために彼らがこんな苦労をするのか分からなかアフタースクール2った。

そして3人の男たちの内面の苦悩や葛藤、そして魅力が描ききれてないため、なんともノッペラボーな印象しか残らない。これは先ほど言った一流企業の社長も同じだ。実力ある役者を揃えているのに残念だ。

そして気になったのが、中学教師をしている男が、チンピラ探偵に放った言葉。

『おまえのような人間はよくいる。何かあると学校が悪い、とすべて学校のせいにする奴。でも違うんだ。学校なんて本当はどうでもいいんだ。要は、自分から楽しくするようにしないといけないんだ(うろ覚えなので激しく違っていると思うが、ニュアンスはこんな感じ)』

ちがうでしょう先生。つか先生が学校なんてどうでもいいなんて言っちゃおしまいよ。

学校に頼らず自分で楽しみを作ろうとしている成熟した子供には、そもそも学校なんて必要ないと思われ。

そしてどれほど多くの子供たちが、期待に胸ふくらませて入った学校で、傷つき、無理解な教師のため性格をゆがめられ、あたら将来を棒に振ってしまったか(もちろんその逆もあるだろうが)

そんな訳でこの作品、以外と海外でリメイクしたら良いかも。

潤沢なハリウッド資本で豪華なサスペンスものにするか、それとも香港映画で、香港ノワールと思いきや実は・・・てなものにするか。

ああ、つくづく自分はイヤミな映画ファンだな。

 

 

 

 

 

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